【特集】ルーヴル美術館展

肖像芸術 ― 人は人をどう表現してきたか

【特集】ルーヴル美術館展


 肖像は最も長い歴史を持つ芸術ジャンル。本展は、肖像が担ってきた社会的役割や表現上の特質を、ルーヴル美術館の全8部門の代表的作例を通じて紹介します。本展は、古代オリエント美術、古代エジプト美術、古代ギリシャ・エトルリア・ローマ美術、イスラム美術、絵画、彫刻、美術工芸品、素描・版画まで総力をあげた企画。各部門を代表する肖像の傑作およそ110点を堪能できる貴重な展覧会です。どうぞこの機会に、身近ながらも奥深い肖像芸術の魅力に触れてみませんか。

◆ マスク―肖像の起源 ◆0606louvre_02.jpg
(左)≪棺用マスクの顔の部分≫ 新王国時代、第18王朝、アメンヘテプ3世の治世(前1391〜前1353年)エジプト出土
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Franck Raux/distributed by AMF-DNPartcom
(右)≪女性の肖像≫ 2世紀後半 エジプト、テーベ(?)出土
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Georges Poncet /distributed by AMF-DNPartcom



 本展の扉を開くこのセクションでは、肖像の起源に位置づけられる、古代エジプトの2つの異なるタイプのマスクがお目見え。
 古代エジプトでは、来世での生を死者に確約するために亡骸をミイラにするのが慣習で、古王国・中王国時代(前2700頃〜前1710頃)はミイラの頭を直接マスクで覆いましたが、新王国時代(前1570頃〜前1070頃)にはミイラをかたどった人型棺が普及。その蓋の頭部がマスクで飾られるようになります。この時代のマスクの顔は故人の容貌に似せたものではなく、理想化・様式化された顔だったそうです。
 しかし1〜3世紀頃になると、ミイラの顔は板に描かれた肖像画で覆われるように。「ファイユームの肖像画」と通称されるこのタイプのミイラ肖像画では、写実性・肖似性が重視され、故人の顔立ちが生き生きと描写されました。 来世で生き永らえるという同じ願いに根ざし、同じエジプトで制作されながら、対極的な表現をなす2つのマスク。あらゆる肖像作品に通底する「理想化・様式化」と「写実性・肖似性」という問題を、象徴的に示しているといえます。


◆ 記憶のための肖像 ◆0606louvre_03.jpg
(左)≪女性の頭部≫ 150-250年 シリア、パルミラ出土
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom
(中)≪ボスコレアーレの至宝 エンブレマの杯≫ 35-40年頃 イタリア、ボスコレアーレ出土
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom
(右)≪マラーの死≫ 1794年頃 ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Martine Beck-Coppola/ distributed by AMF-DNPartcom


 本章では、「人の存在を記憶する」という肖像の最も古い役割に焦点を当てながら、神々に捧げるため、あるいは子孫に残すために制作され肖像作例を展示。
 古代の地中海世界には、祈願が成就したときの返礼あるいは信心の証しとして、神々や英雄など信仰の対象に自身の像を奉納する習慣があり、自分の分身となる像に信心の記憶を託しました。
 そしてもう一つ注目すべきが葬礼美術。古代には、亡き人や親族の記憶を残しその永遠性を記念するため、肖像表現をともなう墓碑が幅広い地域で作られており、シリアのパルミラ出土の《女性の頭部》はその一例です。
 そして、キリスト教文化が普及した中世以降のヨーロッパでも、墓碑に故人の肖像彫刻を用いる習慣は存続。その表現は時代や地域、社会によってさまざまに異なりますが、本章では中世末期から19世紀半ばまで、フランスの作例を中心に紹介します。


◆ 権力の顔 ◆

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(上段左)≪王の頭部≫通称≪ハンムラビ王の頭部≫ バビロン第1王朝、前1840年頃 イラン、スーサ出土
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Raphaël Chipault/distributed by AMF-DNPartcom
(中)≪アレクサンドロス大王の肖像≫、通称≪アザラのヘルメス柱≫2世紀前半、リュシッポスによる原作 (前330年頃)に基づきイタリアで制作 イタリア、ティヴォリ出土
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Daniel Lebée/Carine Déambrosis/ distributed by AMF-DNPartcom
(右)≪アルコレ橋のボナパルト 1796年11月17日≫ 1796年 アントワーヌ=ジャン・グロ
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Hervé Lewandowski/ distributed by AMF-DNPartcom
(下段左)≪ナポレオン1世のデスマスク≫1833年 フランチェスコ・アントンマルキ
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Pierre Philibert/distributed by AMF-DNPartcom
(中)≪フランス王妃マリー=アントワネットの胸像≫1782年 セーヴル磁器製作所(ルイ=シモン・ボワゾに基づく)
photo© Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Peter Harholdt/distributed by AMF-DNPartcom
(右)セーヴル王立磁器製作所 《国王の嗅ぎタバコ入れの小箱》 1819-1820年
マリー=ヴィクトワール・ジャコト
《「国王の嗅ぎタバコ入れの小箱」のためのミニアチュール48点》1818-1836年

Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Droits réservés /distributed by AMF-DNPartcom



 「記憶」と並び担ってきたもう一つの役割が「権力の顕示」。王や皇帝など最高権力を振るった君主にとって、自らの似姿である肖像は権勢を広く知らしめる最も有効な手段でした。そこには、誰が見ても君主だと分かるように、各時代・地域・社会の文脈に応じて構築された表現コード(決まった表現の仕方・表現上のルール)が用いられているのがわかります。
 たとえば、紀元前三千年紀末頃の古代メソポタミアの王は、《ハンムラビ王の頭部》と通称される像のように、縁のある被り物をかぶった姿で表現。また、フランス皇帝ナポレオンは、古代ローマの皇帝像とフランスの国王像の双方の表現コードを自らの肖像に巧みに取り入れ、君主としての正当性を強調する戦略をとっています。こうした権力者の肖像は、頭部像、胸像、全身像などの彫刻、絵画や版画から、持ち運ぶことのできるタバコ入れ、貨幣やメダルまで、多岐にわたる媒体に表わされ、国土の隅々まで伝わりました。
 本章では、絶対権力を握った君主や、王妃・王女を表した作品を通じ、権力者の肖像表現の特質を浮かび上がらせます。


◆ コードとモード ◆0606louvre_05.jpg
(上段左)≪赤い縁なし帽をかぶった若い男性の肖像≫ 1480-1490年頃 サンドロ・ボッティチェリと工房
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Michel Urtado/ distributed by AMF-DNPartcom
(中)≪女性の肖像≫通称≪美しきナーニ≫ 1560年頃 ヴェロネーゼ   
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Michel Urtado/ distributed by AMF-DNPartcom
(右)≪ヴィーナスとキューピッド≫ 1657年頃 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン   
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Tony Querrec/ distributed by AMF-DNPartcom
(下段左)≪エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像≫
1796年 エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Michel Urtado/ distributed by AMF-DNPartcom 
(中)≪第2代メングラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネスの肖像≫
1791年 フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Philippe Fuzeau/distributed by AMF-DNPartcom
(右)≪性格表現の頭像≫ 1771-1783年の間 フランツ・クサファー・メサーシュミット
photo©Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/Pierre Philibert/distributed by AMF-DNPartcom


 古代以来の「記憶」のための肖像、そして「権力の顕示」のための肖像は、王侯貴族や高位聖職者のみが制作できた特権的なジャンル。しかし、ルネサンス以降のヨーロッパでは、社会の近代化にともないブルジョワ階級が次第に台頭、有力な商人や銀行家からさらに下の階層まで、肖像のモデルの裾野が広がっていきました。こうした肖像は、古代より培われた上流階級の肖像表現のコード(決まった表現の仕方・表現上のルール)を踏襲しながらも、一方で各時代・地域・社会に特有のモード(流行)を反映することで、多様な展開を遂げていきます。
 たとえば、衣服や装身具の描写は、それまでの肖像にも欠かせない表現コードでしたが、「記憶」と「権力の顕示」のための肖像ではモデルの社会的地位や役割を伝え、その存在の永遠性を記念する機能を担ったのに対し、ルネサンス以降の幅広い階層の人々の肖像では時代のモードに即した衣服や装飾品が取り入れられ、モデルの人柄や個性、生の輝きを伝える役割を果たしました。ルネサンスのヴェネツィア女性ならではの優雅なドレスや宝飾品の繊細な描写でモデルの魅力を際立たせたヴェロネーゼの傑作《美しきナーニ》は、その好例です。
 本章では、ルネサンスから19世紀までのヨーロッパ各国の肖像作例を男性・女性・子供と家族などの主題別に紹介し、コードとモードが錯綜する中でどのような肖像表現が展開されたのかを考察します。


◆ アルチンボルド―肖像の遊びと変容 ◆0606louvre_06.jpg
≪春≫1573年 ジュゼッペ・アルチンボルド
photo©RMN-Grand Palais(musée du Louvre)/Jean-Gilles Berizzi/ distributed by AMF-DNPartcom

 本展を締めくくるのは、ジュゼッペ・アルチンボルドの「四季」連作に属する2点の傑作、《春》と《秋》。16世紀後半に活躍した奇才の画家の人気を支えていたのは、彼の最大の特徴である「多義性」です。
 たとえば《春》という作品。鑑賞者はこの絵の中に人物の姿を見ると同時に、それを構成する花の一つひとつを識別することができます。1点の絵画を肖像画としても静物画としても楽しむことができるのです。また、多種多様な植物が寄せ集まったイメージには、「春」の季節の寓意と同時に、森羅万象を掌握するかのような強大な権力の隠喩を読み取ることも。表現と意味内容のいずれにおいても多義性をもつこうしたイメージは、人文主義に根ざしたルネサンスの宮廷文化のなかで、視覚と知性の双方を楽しませる奇想として支持を得たといいます。
 ただ一人の人物に似ていること―「肖似性」を本来的特徴とする肖像は、多義性とは相容れないように思われます。しかしルネサンスから20世紀のシュルレアリスムに至るまで、多義性を帯びた奇想が最も華々しく展開された芸術ジャンルは肖像でした。見る人の視線によって多義的イメージに変容する肖像の醍醐味を、アルチンボルドの作品を通して堪能してみましょう。

■期間/2018年5月30日(水)〜9月3日(月)
※毎週火曜日休館 ※ただし8/14(火)は開館
■時間/10時〜18時 ※金・土曜日は、5・6月は20時まで、7・8・9月は21時まで
※入場は閉館時間の30分前まで
■場所/国立新美術館 企画展示室1E
■交通/東京メトロ千代田線「乃木坂駅」青山霊園方面改札6出口(美術館直結)、日比谷線「六本木駅」4a出口から徒歩約5分、都営地下鉄大江戸線「六本木駅」7出口から徒歩約4分
■料金/大人1,600円、大学生1,200円、高校生800円
■問合せ/03(5777)8600(ハローダイヤル)
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/

★こちらの招待券を5組10名様にプレゼント!
★申込み締切 6/25(月)12時まで
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

更新日:2018年6月6日(水)

ルーヴル美術館展

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