現代日本の大衆文化の源流は、明治末期から昭和初期までの先端メディアであった印刷物の中に見出すことができます。なかでも印刷技術の革新が進んだ大正時代(1912-1926)は 出版界が興隆し、西洋の芸術やアール・ヌーヴォー、アール・デコの様式と日本の伝統を融合させた独特な美意識のデザインやイラストレーションが生み出されました。本展では、文学と美術、音楽などが混じりあう近代の書物と刷物を愛した山田俊幸氏の収集品から大正時代を中心とする約330点を選びご紹介します。大衆に忘れがたい記憶を残した儚く膨大なイメージ群―大正イマジュリィの世界を、藤島武二、杉浦非水、竹久夢二などの主要な作家たちと、時代を映すさまざまな意匠を切り口に掘り下げます。
展覧会の見どころ
1 デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s
大正時代に進んだ大量印刷技術にのせて新しいイメージを発信し、日本人の感性を変えた人々の仕事をたどる展覧会です。藤島武二や杉浦非水、竹久夢二、高畠華宵、蕗谷虹児、古賀春江など、普段はまとめて展示することの難しい画家たちの装幀や挿絵を、山田俊幸氏の幅広い出版物の収集品によって一堂に展示します。日本のグラフィックデザインとイラストレーションの黎明期を多角的に紹介します。 ※「デザイン」「イラストレーション」という呼称が日本に浸透したのは1950年代以降です。
2 書物と刷物、儚い宝物
テレビもインターネットもなかった時代の庶民にとって、印刷物はほぼ唯一の視覚的な情報源であり、お気に入りの挿絵はくりかえし眺める宝物でした。当時の印刷には江戸期以来の多色刷木版の技術や、石版も用いられています。紙の印刷自体が減りつつある今、希少な存在になった大正イマジュリィの「物」としての 存在感を感じていただける展覧会です。
3 現代日本の大衆文化のルーツ
大正時代は、明治時代の立身出世主義と昭和中期の戦時統制のあいだにあって、個人の内面に関心が向き、感性や感情が表現されました。いま私たちが享受しているロマンティックな恋愛観、江戸と京都の日本情緒、魅力的なイラストレーション、都会的なデザインなどは、この時代に生み出されたものです。国際的にも認知された日本の独特な大衆文化のルーツを発見できます。
【大正イマジュリィとは】 イマジュリィとはフランス語で、ある時代やジャンルに特徴的なイメージ群のことです。1900-30年代の日本には西洋から新しい複製技術が次々に到来し、雑誌や絵葉書、ポスター、写真などに新鮮で魅力的なイメージがあふれました。当時の活気に注目した研究者はこれらの大衆的複製物を「大正イマジュリィ」と総称し、2004年に学会を結成しました。
【監修者 山田俊幸氏(1947-2024)】 近代文学から出版文化に興味を広げ収集・研究。大正イマジュリィ学会の創立会員・役員を務め、自身の収集品を核に2010年「大正イマジュリィの世界」展(渋谷区立松濤美術館)を開催。同展はその後も巡回。元・帝塚山学院大学教授、日本絵葉書会会長等。
大正イマジュリィの作家たち
創造的な足跡を残した作家をクローズアップします
大正時代の出版文化に創造的な足跡を残した作家 12 名をとりあげます。彼らは民主化の気運が高まった明治末期(1900年代)から戦時色が影を落とす昭和10年代までのあいだ、 複製されて大勢の手元に届く出版物のデザインを通じて大衆のひとりひとりが主役になる新時代の明るさを印象づけました。同時に、個人が心の奥に抱く郷愁や憧憬、日々の繊細 な感情、衝動、欲望も視覚化しました。それらは現在も私たちの心を捉える魅力を持っています。
藤島武ニ(1867-1943)
-アール・ヌーヴォー様式で浪漫を広めた巨匠

藤島武二・表紙絵 『明星』第11号 1901年 東京新詩社 個人蔵
杉浦非水(1876-1965)
日本で最初のグラフィックデザイナー

杉浦非水・装幀/菊池幽芳・著 『お夏文代』1915年 春陽堂 個人蔵
橋口五葉(1881-1921)
美しい装幀本の先駆者

橋口五葉・装幀/夏目漱石・著 寸珍『吾輩ハ猫デアル』1911年初版/1919年57版
大倉書店 個人蔵
竹久夢二(1884-1934)
新しい抒情と美のインフルエンサー

(左)竹久夢二・表紙絵 『汝が碧き眼を開け』(セノオ楽譜第56番)
1917年初版/1927年7版 個人蔵
(右)竹久夢二・表紙絵 『婦人グラフ』第2 巻第2号 1925年 国際情報社 個人蔵|
高畠華宵(1888-1966)
モダンな美少女像の創造者

高畠華宵・口絵 「初夏の風」『少女画報』18巻5号
1929年 東京社 個人蔵
岸田劉生(1891-1929)
内なる美の探究者

岸田劉生・表紙絵 『生長する星の群』第2年第5号 1922年 新しき村出版部・曠野社 個人蔵
古賀春江(1895-1933)
大量複製時代の詩人

古賀春江・表紙絵 『香蘭』第9巻第1号 1931年 香蘭詩社 個人蔵
小林かいち(1896-1968)
逆輸入された謎多きデザイナー

小林かいち 絵葉書セット
『灰色のカーテン』より 1925-26年頃
さくら井屋(京都)個人蔵
さまざまな意匠
テーマ別に、匿名の作者の仕事を含む イマジュリィを紹介します
大正時代にはフランスの哲学者アンリ・べルクソンによる、生命には創造的に進化する衝動(エラン・ヴィタルélan vital)が備わっている、という思想が広まり、創造性が重んじられました。おりしも興隆した出版界において、青年たちは雑誌に文や絵を投稿し、自主出版で創意を世に問い、装幀や挿絵に自己を表現 したのです。エラン・ヴィタルの視覚化から、浮世絵の再生、次世代を育む童画、耽美な怪奇美、都市の商業デザインまで、印刷にのせて人々の意識を変えたさまざまな意匠をたどります。
エラン・ヴィタルのイマジュリィ
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子ども・乙女のイマジュリィ
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浮世絵のイマジュリィ
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怪奇美のイマジュリィ
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京都アール・デコのイマジュリィ
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尖端都市のイマジュリィ
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大衆文化のイマジュリィ
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新興デザインのイマジュリィ
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■展覧会名/大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s
■会期/7月12日(土)〜8月31日(日)
■会場/SOMPO美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
■開館時間/10時〜18時(金曜日は〜20時) ※最終入館は閉館30分前まで
■休館日/月曜日(ただし7/21、8/11は開館)、7/22、8/12
■観覧料/一般(26歳以上)1,500円、25歳以下1,100円、高校生以下無料
※身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳を提示のご本人とその介助者1名は無料、被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料
■主催/SOMPO美術館、毎日新聞社
■特別協賛/SOMPOホールディングス
■特別協力/損保ジャパン
■協力/大正イマジュリィ学会
■監修/山田俊幸
■後援/新宿区、TOKYO MX
■企画協力/株式会社キュレイターズ
■お問合せ/050-5541-8600(ハローダイヤル)
■アクセス/新宿駅西口より徒歩5分
★こちらの無料観覧券を5組10名様にプレゼント!
★申込み締切7/4(月)12:00まで
※当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
SOMPO美術館|大正イマジュリィの世界 |
更新日:2025年6月18日(水)