インドで生まれた更紗(さらさ)はその誕生から数千年の歴史の中で、衣服や宗教儀式、室内装飾などさまざまな用途に使われてきました。天然素材の茜(あかね)と藍(あい)を巧みに用いて、染織の難しい木綿布を色鮮やかに染め上げて作られた更紗は、のびやかで濃密な文様が大きな特徴です。また、染色の驚異的な堅牢性も、世界中の人々を驚かせました。主要な交易品として、おそくとも1世紀には東南アジアやアフリカへと渡り、17世紀にはヨーロッパ各国で相次いだ東インド会社の設立に伴い世界中へと輸出されます。貿易を通して他国の要望に応じたデザインを自在に展開しつつも、力強いインドの美意識を内包するインド更紗は、装飾美術から服飾まで世界中のあらゆる芸術に多大な影響を与えました。
同展ではインド国内向けに作られた最長約8メートルの完全な形で残る更紗の優品から、アジアとヨーロッパとの交易で生み出されたデザインを伝える掛布や服飾品、そして国内のコレクションも交えた日本での展開を伝える貴重な作品を紹介します。
世界屈指のコレクター、カルン・タカール氏のコレクションを日本で初めて紹介する同展で、今もなお世界中の人々を惹きつけてやまないインド更紗の奥深い魅力を堪能してください。
コレクターのカルン・タカール氏について
1960年生まれのカルン・タカール氏は、幼少期にインドのデリーで母親が経営していた仕立屋を手伝いながら、さまざまな布から精緻な衣装が作られるのを身近に見て育ちました。1974年に家族で英国へ移住した後も布や工芸への興味は尽きることなく、1982年からアジアとアフリカの民芸品や染織品の収集を始めます。2021年にはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館と協働で、アジア・アフリカのテキスタイルと服飾の研究を助成するカルン・タカール基金を設立しました。 「私はこのコレクションの束の間の守り人にすぎません」 と語るタカール氏は、自身のコレクションを博物館に寄贈したり貸し出したりと、人々と共有することをとても大切にしています。
カルン・タカール氏からのメッセージ幼い頃から日本に興味があった私は、30年前に日本の染織品を集め始めました。そして、日本の文化的、視覚的、芸術的、美的観念に夢中になりました。その一端は2015年に出版された書籍『銘仙着物:カルン・タカール・コレクション』(*1)と、2023年のロンドンでの展覧会「日本のリサイクル美学」(*2)で公開されています。 |

《白地人物草花文様更紗儀礼用布》 17-18世紀、
南東インド(スリランカで発見と伝わる)、109×155cm
花を摘む人
描かれた人物は、額の線と首にかけたルドラークシャ(菩提樹の実)の数珠によって、ヒンドゥー教のシヴァ派の信者であることがわかります。生い茂る植物に囲まれて立ち、祈りの儀式プージャーで使う花を摘んでいるようです。その優美な姿勢と指先は、特に繊細に描かれています。

《白地人物城郭文様更紗裂》18世紀、南東インド海岸部(スリランカで発見と伝わる)、100×92cm
にぎやかな構図
上段中央に座る占い師の手元に並ぶ伏せた器からは蛇や鳥、サソリや果物が表れ、右手は印を結んでいます。左右には太鼓を持った人物、そして後方にはオランダ国旗を掲げた砦。下段は宮廷の様子なのか、たくさんの宝石を身に着けた人物が従者になにか指示しています。右端の馬の上方にはトランペットのような楽器が伸び、にぎやかな音楽が聴こえてきそうです。

《白地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》1740-50年頃、
南東インド海岸部(スリリランカで発見と伝わる)、297×223cm
生命讃歌の樹
中央に立木の模様が描かれたベッドカバーや室内装飾用の布「パランポア」は、インド全土で何百年ものあいだ作られてきましたが、これはヨーロッパ人の好みにあわせた白地のデザインです。パランポアはヒンディー語の「パラン・ポッシュ」、つまり「ベッドカバー」に由来します。ごつごつした岩山に力強く根を張り、大輪の花を咲かせた枝はねじれ、躍動感に満ちています。インドの宮殿やテントを装飾してきた立木モチーフの更紗は、海を越えてヨーロッパの人々の暮らしを彩る装飾品として人気を博しました。

《白地花文様更紗女児用帽子》18世紀、オランダ
子ども用の帽子にも
大航海時代が幕をあけ、ポルトガルやオランダの商人たちによってインド更紗がヨーロッパにもたらされます。それまでヨーロッパの染織品は色数も乏しく、素材は麻や絹地が中心でしたが、色鮮やかで伸びやかな模様に彩られた上質な木綿布を初めて見た時の驚きは、いかばかりだったでしょうか。やがて自国の産業を守るために禁令が出るほど爆発的な人気となりました。この帽子は、貴重なインド更紗をあますところなく使い切るため、小さな端切れをつなぎ合わせて作られました。

《白地チューリップ虫文様更紗裂》1700-30年頃、
南東インド海岸部(日本で発見と伝わる)、20×13cm
チューリップと虫
オランダ向けに生産されたと考えられる、斜めに配されたチューリップと虫だけの印象的なデザイン。ここに描写された赤と紫の2色のチューリップは、17世紀前半にヨーロッパで人気を博した近代的な栽培種を表しています。更紗の生産者たちがさまざまな国の需要にあわせてデザインを研究していたことがうかがえます。
■展覧会名/カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語
■会期/2025年9月13日(土)〜11月9日(日)
■会場/東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
■開館時間/10時~18時(金曜日~20時)※入館は閉館30分前まで
■休館日/月曜日(ただし9/15、10/13、11/3は開館)、9/16(火)、10/14(火)
■入館料/一般1,500円、高校・大高生1,300円、中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は200円引き(介添者1名は無料)
■TEL/03-3212-2485
■主催/東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]
■後援/ブリティッシュ・カウンシル
■応援/インド大使館
■協力/日本航空
■企画協力/株式会社ブレーントラスト
■協賛/T&D保険グループ
■監修/岩永悦子(福岡市美術館館長)
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★申込み締切 8/22(金)12:00まで
※当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
東京ステーションギャラリー|公式サイト |
更新日:2025年8月6日(水)