
松本竣介《立てる蔵》
1942年
油彩/カンヴァス
162.0×130.0cm
神奈川県立近代美術館
開館50周年を記念し、新宿をテーマとした展覧会を開催いたします。日本の近代美術(モダンアート)の歴史は、新宿という地の存在なくしては語れません。明治時代末期の新宿には新進的な芸術家が集まりました。そして、新宿に生きる芸術家がさらに芸術家を呼び込み、近代美術の大きな拠点の一つとなりました。本展は、中村彝(つね)、佐伯祐三から松本竣介(しゅんすけ)、宮脇愛子まで、新宿ゆかりの芸術家たちの約半世紀にわたる軌跡をたどる、新宿の美術館として初めての試みです。
開館50周年にあたる2026年、SOMPO美術館では「再発見」をキーワードにさまざまな展覧会を開催します。本展は、そのプレ企画に位置付けられます。新宿に生きた約40名の作家が、50年という時間軸で一堂に会すという、またとない企画です。
展覧会の見どころ
1. アートで知る、新宿の文化史
明治から戦後初期にかけて4つの区分を設定。時系列に沿いつつ、それぞれを全く異なる運動として捉え、新宿文化の多様性と持続性への理解を深めることができます。
2. 見て、歩いて、味わう新宿
当館の位置する新宿では、数々の「ゆかりの地」を今もなお気軽にめぐることができます。美術館で新宿文化に触れたあと、館を飛び出して、「ゆかりの地」の息吹に浸る、いわば“逆”没入型の体験ができます。
3. あのアーティストも「新宿」?
「新宿」という地域性に注目すると、著名なアーティストたちの意外な関係が見えてきます。新宿に生きたアーティストたちが新宿に再集結する、またとない機会です。
展示構成
i章 中村彝と中村屋 ルーツとしての新宿
1909(明治42)年、相馬愛蔵・黒光(こっこう)夫妻は新宿に中村屋の本店を構えます。中村屋には、荻原守 衛(碌山/ろくざん)や中村彝をはじめとする多くの新進芸術家たちが集まり、「中村屋サロン」を形作りました。 中村屋サロンは、日本の近代美術史におけるルーツの一つといえます。荻原守衛は彫刻家オーギュスト・ロダンに強い衝撃を受け、彫刻家に転向。パリでロダンとの対面を果たし、その影響を日本にもち帰りました。守衛は帰国から2年後、30歳の若さで没しますが、短い活動期間の中で彫刻史に大きな足跡を残しました。 中村彝は、中村屋に集う作家たちの中心的な存在となりました。終のすみかを構えた新宿・下落合にも、彝を慕う作家たちが集い、彝は彼らに示唆を与え続けました。 本章では、日本の近代美術、そして新宿の美術の芽を育てた存在として、中村彝に焦点を当てます。中村屋サロンに出入りした作家や、彝に師事した作家の作品をあわせて展示することで、モダンアートの一拠点としての新宿を捉え直します。

中村彝《頭蓋骨を持てる自画像》
1923年
油彩/カンヴァス
101.0×71.0cm
公益財団法人大原芸術財団 大原美術館
コラム1 文学と美術
1910(明治43)年、雑誌『白樺』が創刊されました。西洋美術を見る機会が非常に限られた当時の日本に、カラー図版で作品を紹介したことで、セザンヌやファン・ゴッホといった西洋の芸術家たちに対する注目を促しました。同年にパリから帰国した有島生馬は、ロダンへ手紙とともに『白樺』と浮世絵を贈り、翌年にロダンから白樺派のもとへ彫刻3点が贈られます。
『白樺』の中心的な存在の作家、武者小路実篤(むしゃこうじさねあつ) 。実篤ともっとも親しかった芸術家に、岸田 劉生がいます。劉生は大正時代の美術を牽引した存在であり、実篤作品の装幀を手がけるなど、活発な交流を行いました。
新宿ゆかりの作家を描いた肖像画、また文学者と画家との交流を窺わせる作品を取り上げます。

岸田劉生《武者小路実篤像》
1914年
油彩/カンヴァス
38.0×36.5cm
東京都現代美術館
ii章 佐伯祐三とパリ/新宿 往還する芸術家
1921(大正10)年、白樺美術館第1回展覧会にファン・ゴッホの《ひまわり》(いわゆる「芦屋のひまわり」) が展示されました。この展覧会の後、佐伯祐三は武者小路実篤宅で本作と対面します。ファン・ゴッホとの邂逅(かいこう)は、佐伯にとって重要なできごとであったといえるでしょう。 同年、佐伯祐三は新宿の下落合にアトリエ付きの住居を新築。近所に暮らしていた曽宮一念と知り合ったのはこのころで、曽宮を通じて中村彝を知ったといいます。 1924(大正13)年、佐伯祐三は妻・米子、長女・彌智子(やちこ)とともにパリへ渡り、里見勝蔵を訪問。 里見からモーリス・ド・ヴラマンクを紹介してもらい、その場で作品を見せると、アカデミックだと厳しく非難されます。これが一つの転機となり、写実を離れ、都市風景を速記的に描く画風を確立。後進の作家たちにも刺激を与えました。パリと日本を行き来しながら制作を展開した代表的な作家としての佐伯祐三を中心に取り上げます。

佐伯祐三《立てる自画像》
1924年
油彩/カンヴァス
80.5×54.8cm
大阪中之島美術館
コラム2 描かれた新宿
モダンアートの街・新宿の歴史は、首都東京が急速な変貌を遂げた歴史と並行します。創作版画運動の担い手たちによる『画集新宿』と『新東京百景』は、いずれも昭和初期に刊行された版画集です。
織田一磨は、山本鼎(かなえ)に呼びかけて、1918(大正7)年に日本創作版画協会を結成。創作版画の普及につとめました。1923(大正12)年に発生した関東大震災から復興していく東京の姿を、『画集新宿』(1930[昭和5]年)などの版画集に記録しました。『新東京百景』(1929[昭和4]年~1932[昭和7]年)は、日本創作版画協会の同人である川上澄生ら8名の作家により刊行されました。本展では、全100図のうち5図を紹介します。これら2編の版画集を中心に、同時代に描かれた新宿や、新宿を生きた作家たちの作品を特集します。

木村荘八《新宿駅》
1935年 油彩/カンヴァス 97.5×130.5cm 個人蔵
iii章 松本竣介と綜合工房 手作りのネットワーク
新宿の落合やその近辺(目白、中井など)には、中村彝や佐伯祐三をはじめ、画家や文学者などの文化人が暮らし、目白文化村や落合文化村として世代をこえて受け継がれました。これとあわせ重要なのは、新宿に隣接する池袋です。1930年代、一帯には多くの芸術家が集まり、各地にアトリエ村を形成。これらは池袋モンパルナスと総称されました。1929(昭和4)年に移り住んだ松本竣介、彼と長年活動をともにした靉光、麻生三郎、鶴岡政男、寺田政明たちは、池袋モンパルナスを代表する作家です。 竣介は、下落合にアトリエ付きの自宅を構えます。このアトリエ「綜合(そうごう)工房」と名付け、雑誌『雑記帳』を通じ、多様な文化人との活動の場をもちました。1943(昭和18)年には新人画会を結成。戦中の時局から距離を置くように、静謐(せいひつ)な風景画を描き続けました。 松本竣介を中心に、綜合工房や九室会、新人画会に集った作家を取り上げます。

松本竣介《N駅近く》
1940年
油彩/カンヴァス97.0×131.0cm
東京国立近代美術館
vi章 阿部展也と滝口修造 美術のジャンルを超えて
1948(昭和23)年、阿部芳文は第 1 回モダンアート展への出品を機に阿部展也(伸哉)を名乗りました。下落合に移り住んだのは、この年のことです。 1953(昭和28)年に西落合へ移った評論家・美術家の瀧口修造をはじめ、阿部のもとには多くの作家たちが集まりました。美術家の福島秀子、写真家の大辻清司(きよじ)らは、瀧口の命名により実験工房を結成。絵画や写真、彫刻、音楽、映像、舞台、詩などジャンルを横断する活動を展開します。実験工房のメンバー以外にも、芥川(間所)紗織、宮脇愛子などが阿部に師事しています。 阿部と瀧口の共作になる詩画集『妖精の距離』(1937[昭和12]年)は、日本における初期のシュルレアリスム的表現として記念碑的に位置付けられる作品です。本作を起点に、阿部や瀧口とともに新しい手法を絵画に取り入れていった作家を紹介します。

(左)芥川(間所)紗織《女》1954年
染色/綿布 131.0×98.4cm
板橋区立美術館
(右)宮脇愛子《作品(TL11-0)》1962年 油彩・大理石粉/カンヴァス 91.0×71.0cm 水戸芸術館
エピローグ 新宿と美術の旅はつづく
本展の物語は、中村屋に始まりました。水戸に生まれた中村彝は、後半生を新宿に生きました。一方、エピローグで取り上げる清宮質文(せいみやなおぶみ)は新宿に生まれ、現在は水戸に眠っています。清宮が手がけた作品は、はかなさと追憶かが込められ、内省を 促します。中村彝から始まった50年にわたる本展のストーリーを、清宮の静謐な版画によって閉じます。
会期中のイベント
【学芸員のギャラリートーク(参加自由)】
1月16日(金)、1月23日(金)いずれも18時〜18時40分
本展担当学芸員が展覧会の見どころや出品作品について展示室で解説を行います<展示フロアを移動しながらマイクを使用して説明します>
●参加方法:時間になりましたら5階展示室入口へお集まりください
●参加費:無料 ※ただし、本展への入場が必要です
【ギャラリー★で★トーク・アート】
2月9日(月)14時〜16時
休館日に貸し切りの美術館で、ボランティアガイドと話をしてみませんか? 作品解説を聞くのではなく、参加者が作品を見て、感じて、思うことを話しながら楽しむ参加型の作品鑑賞会です<定員30名>
●参加方法:web申込/2025年12月19日(金)10時より
美術館ホームページにて受付開始
●参加費:1,500円(税込)、高校生以下無料
※ご招待券、ご招待状、年間パスポート、割引等は適用できません
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開館50周年記念 モダンアートの街・新宿
■会期/2026年1月10日(土)〜2月15日(日)
■会場/SOMPO美術館(新宿区西新宿1-26-1)
■開館時間/10時〜18時(金曜日は20時まで)
※最終入場は閉館30分前まで
■休館日/月曜日(ただし1月12日は開館)、1月13日
■主催/SOMPO美術館、東京新聞 特別協賛:SOMPOホールディングス 特別協力:損保ジャパン
■後援/新宿区、TOKYO MX
■観覧料/一般(26歳以上)1,500円(事前購入券1,400円)、25歳以下 1,100円(事前購入券 1,000円)、高校生以下 無料
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★申込み締切 12/21(日)12:00まで
※当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
更新日:2025年12月3日(水)







