■■ 第14回 お正月こそきもの ■■
■■ハレの日に着るきもの
古来より、日本にはハレとケという世界観があります。ケは日常、ハレはお祭りや年中行事などを行う非日常です。人間の領域と神様の領域と言い換えてもよいかもしれません。東京ではその境目がだいぶ曖昧になって、新興住宅地では秋のお祭りも形ばかりになっていますが、それでもハレの代表格であるお正月だけは、日本人が揃って特別な気持ちになります。元日の朝、家々に飾られた門松や玄関飾りを目にすると、なんとも清々しい気持ちになります。
元旦は晴れ着を着て、家族揃って新年の挨拶をしてからおせち料理をいただくというのが子供の頃の習慣でした。普段は洋風の生活スタイルで過ごしていても、お正月ばかりは「和」一色になるのです。器もお正月用の漆や赤絵が登場して華やかになります。服装も食卓もフォーマルで、気持ちがシャンとします。子供たちは、七五三の時に作ってもらった晴れ着を着せてもらって大喜びです。日常とは違う特別な雰囲気。「日本」を感じる貴重な時間です。
■■紬だって十分ハレ着です
さて大人になった今、お正月に着るきものというと、私の場合はやはり紬になってしまいます。いわゆる晴れ着ではないですが、きもの人口が少ない今は、きものを着ているだけで十分ハレな感じになります。とはいえ少しは華やかにしたいので、手摺り疋田を選びます。手摺り疋田は遠目には総絞りのように見えますが、伝統工芸士の職人さんの手による型染めです。細かい疋田模様を型紙に彫るのは大変な作業。こういう職人さんがどんどんいなくなるのは寂しい限りです。写真上の黒地の帯は真綿紬で、何にでも合わせやすく締めやすいので、頻繁に登場するお気に入り。同じきものでも帯を変えると、がらりと違う印象になります。私はお太鼓に結ぶことは殆どなく、フォーマル以外は大抵銀座結びです。その方が自分らしい気がするからです。
結局、和装の決め手は帯周りかなぁと思います。帯揚げ・帯締めをたくさん持っていると、同じきものと帯でも変化のある着こなしが楽しめますし、帯留めや帯飾り(根付)という魅力的なアクセサリーもあります。さて、来年の初詣はどちらの装いで行きましょうか。
(文/レディ東京編集者 中島有里子)
<<< 第13回 母のきものを私らしく着る ←こちらからバックナンバーを読む事ができます
更新日:2021年12月1日(水)