大人の嗜み 〜きもの美を知る〜

大人の嗜み 〜きもの美を知る〜


 コロナ禍の中、今年は特別な年明けとなりましたが、みなさんはお正月にきものを着ましたか? 50代以上の方の中には子どもの頃、お正月を晴れ着で過ごした経験がある方も多いのではないでしょうか。晴れ着とまで言わなくても、ウールのアンサンブルで凧揚げや羽根つきをした、という思い出を持つ方もいるかもしれませんね。数十年前までは、きものはお正月のマストアイテムでした。お正月はハレの中のハレ。晴れ着を着て清々しい気持ちで新年を過ごすことが今よりずっと大切にされました。現代人は忙しく、きものを着る人がぐっと減りましたが、もしお正月に日本中の人がきものを着ていたらカッコイイと思うのです。
 現代のように忙しい時間軸の中にいると大切なものを見失いそうになります。美しいものはちょっと不自由です。でもその不自由さを味わうのも時にはいいもの。きものはいつもと違う時間軸に連れて行ってくれます。

■ 第3回 江戸小紋 ■

江戸小紋とは

 きものは織物と染め物の2つに大きく分かれます。織物は先に糸を染め、縦糸と横糸で紋様をつけながら織っていくもの、染め物は白い生地を後から染めたものです。染め物には友禅などの手書きのものと、型を使って染めていく型染めがあり、型染めの中の「小紋」というジャンルの中でもより細かいものを「江戸小紋」と呼びます。 江戸小紋は、もともと武士の礼装である裃から発達したものです。遠目には無地に見えますが、近くで見ると細かい連続模様で埋め尽くされています。江戸時代には派手なきものを禁止した「奢侈禁止令」が断続的に発令されたため、密かな贅沢として、より細かく微細な柄を掘り出して染め上げることが職人たちに求められるようになり、限界への挑戦ともいえる高度で卓越した技術が出来上がったのです。


kimono03_a5.jpg

カジュアルにもフォーマルにも
 
きものを着慣れない人でも違和感のないシックな雰囲気が魅力の江戸小紋。おしゃれ着やお出かけ着としてだけではなく、紋を入れることで結婚式などのハレの席にも着ていくことができるオールマイティなきものといえます。コーディネートの許容範囲が広いことが魅力で、1枚持つとしたら江戸小紋がおすすめです。
 江戸小紋にはかつて庶民が生み出したユーモアあふれる柄がたくさんあります。中でも格が高いとされるのが、江戸小紋三役といわれる「鮫」「行儀」「通し」の3つ。「鮫」は鮫肌模様を表しますが、硬い鮫肌は鎧に例えられ、魔除けや厄除けの意味が込められます。「行儀」は小さな点が斜め45度に並んだ柄で、丁寧なお辞儀の角度でもあり整然と行儀よく並ぶことから「礼を尽くす」という意味を持ちます。また「通し」は細かい線がまっすぐ並んだ模様で、筋を通すという武士道の精神を表現しています。「極」と名のつくものは、3cm四方に900個以上の穴が開けられており、最も格が高いとされます。この三役に「大小あられ」万筋などの「縞」を加えると江戸小紋5役となります。

kimono03_b.jpg左から「鮫」「行儀」「通し」

kimono03_c.jpg
左から「大小あられ」「万筋」



型を彫る職人と染師
 
江戸小紋は型紙に彫られた型をもとに染め模様をつくり出す「型染め」です。その命ともいえる型紙作り。染型紙には、高度な彫刻技術と伸縮しない強靭な型地紙が欠かせません。伊勢染型紙は、美濃和紙を柿渋でベニヤ状に貼り合わせ、燻煙と乾燥による伝統的な製法で作られます。これに熟練の職人が彫刻刀で文様を彫り抜いていくのです。伊勢型紙の彫刻技法には、「錐(きり)彫り」「突き彫り」「道具彫り」「縞彫り」があり、これらの技術は重要無形文化財に指定されています。一度に6枚〜8枚の型地紙を重ねて固定し、下絵に沿って掘り上げていくのです。1セット仕上げるのに半月〜1ヶ月以上かかる、忍耐と根気のいる作業です。
 こうしてできた型紙を使い、柄のつなぎ目がずれないように染め上げるのが染師の仕事です。1枚の型紙を使って13メートル近い反物に糊付けのうえ染付をしていきます。型紙を平行移動させながら、境目をいかに自然につなげていくかが染師の腕の見せ所。熟練の技が要求される仕事です。遠目に無地に見える江戸小紋は、東京好みといえる都会的な雰囲気があります。皆さんもぜひ一度手に取ってみてはいかがですか。

<<< 第2回 西陣織(京都)

《 今月のワンポイント:八掛 》

kimono03_d.jpgきものは、チラッと見える部分にこだわるのがお洒落とされます。その1つが、きものの袖口や裾の裏に使われる八掛です。歩いた時に裾がめくれてチラッと見える色。また動いた時に袖口に見える色。この色合わせがセンスの見せ所となります。古い大島紬などでは赤い八掛を使っているものがよく見られますが、今は洋服に近い色彩感覚で選ぶのがお洒落。同系色もよいですし、意外な色がのぞくのもまた素敵です。

更新日:2021年1月13日(水)

会員登録はこちら web限定会員プレゼント 今月のladytokyo 媒体資料 朝日おでかけ