きもの

第36回 十日町織物(新潟県)


■ 第36回 十日町織物(新潟県) ■

新潟県の南部に位置し、全国有数の豪雪地として知られる十日町市。多い年にはなんと3メートル弱も雪が積もるそう。そんな雪に囲まれた十日町で古くから冬に行われていたのが、染織物の生産。その伝統は脈々と受け継がれ、全国屈指のきものの産地として発展しました。

長い冬の間、糸を紡ぎ、糸を染め、そして機(はた)を織った

雪深い地域として知られる十日町市は、昔から春から秋にかけては田畑の仕事、しんしんと雪に覆われる冬には染織物の生産が行われていました。今では「雪と着物のまち」として知られていますが、染織物の歴史は古く、十日町市の古墳時代中期の遺跡からも機織り用具が発見されているということです。このことからも昔からこの地の気候風土が織染物に適していたことが伺えます。十日町市一帯は山々に囲まれた盆地。盆地であるがゆえに、1年を通して強い風が吹かないことから、古くから麻織物の原料となる苧麻の生産が盛んでした。また、清らかな雪解け水が豊富で、染色に必要なきれいな水が確保できること、さらに雪の上に布を広げる「雪ざらし」によって上質な布を産むことができることなど、幾つのもの条件が揃っています。

国の伝統工芸品、十日町絣と十日町明石ちぢみ

春に開催される「十日町きものまつり」

●十日町絣
絣は木綿や絹、麻などの素材が使われますが、十日町絣は絹で作られます。そのため、絹ならではの光沢とツヤ、繊細な絣模様が特徴です。模様のために染め分けた絣糸を経糸と緯糸の両方に絣糸を用いる「経緯(たてよこ)絣」のため、十日町絣を織り上げるには高度な技術が必要です。

●十日町明石ちぢみ

同じ新潟県の小千谷ちぢみは麻素材なのに対して、十日町明石ちぢみは絹のちぢみです。
ちぢみと言えば夏の着物の代表格。清涼感あふれる着心地の秘密は、ちぢみ独特の波状のしわの「しぼ」。この「しぼ」を出すために、緯糸に強い撚りをかけています。また、数ある織物の中でも、特に細い絹糸を使用。細い糸を得るために、繭の端は使わず、真ん中の糸のみを使うこだわりぶりです。「蝉の翅」と例えられるほどの軽やかさを誇る十日町明石ちぢみは夏きものでありながら、絹ならではの光沢が上品な暑い夏に寄り添ってくれるきものです。

十日町市では春の「きものまつり」、冬の「雪まつり」など四季折々のイベントできものの魅力を発信しています。旅行も兼ねて十日町織物の素晴らしさに触れてみるのはいかがでしょうか。
(レディ東京ライター/近藤洋子)


更新日:2023年10月19日(木)