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第44回 近江上布

第44回 近江上布

レディ東京・きものコラムでも数回取り上げてご紹介している上布。上布のような麻の布は皆さんもご存知のように風通しがよく、サラッとした着心地で暑い夏に最適な素材です。今回は上布のなかから600年もの歴史がある近江上布をご紹介します。

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湖東地域の豊かな自然から生まれた麻織物

滋賀県の湖東地域、愛知郡周辺で作られているのが近江上布です。近江上布は苧麻(ラミー)大麻(ヘンプ)を原料とします。湖東地域は琵琶湖から発生する霧や愛知川や能登川が流れるなど、湿度の高い盆地ですが、苧麻(ラミー)は温暖で湿度が高いエリアが生育に適しているので、この地域では古くから苧麻(ラミー)の栽培が行われてきました。湖東地域では麻織物は鎌倉時代から作られており、出来上がった麻織物は近江商人によって全国に広まりました。江戸時代には彦根藩の庇護のもとさらなる発展を遂げ、安定した地場産業の地位を確立しました。

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近江上布は「生平(きびら)」と「絣」の2種

近江上布はまず手で糸を紡ぐ「手績み(てうみ)」の作業から始まります。職人が一反分の糸を作り上げるには2ヶ月もの時間を要する大変な作業です。近江上布は「生平(きびら)」と「絣(かすり)」の2種類の織りがあります。「生平(きびら)」は紡いだ糸をそのまま織りあげるので、素材の風合いが楽しめる生地になります。「絣(かすり)」は糸をあらかじめ染め、柄を生地に表現する先染めという方法で作られます。「生平(きびら)」と「絣」は近江上布として昭和52年、国の伝統工芸品に指定されました。昔は近江上布という言葉はなく、「高宮布」と呼ばれていました。湖東地域の宿場町・高宮宿が名前の由来になっているようです。高宮宿は京都と江戸を結ぶ中山道沿いの宿場町で多賀大社の門前町でもあったことから、多くの人が訪れ、高宮布の評判は広まったということです。
現在、近江上布伝統産業会館では近江上布の伝統を守るために手績みからできる職人を養成し、現代につなげているということです。

(レディ東京ライター/近藤洋子)


更新日:2024年8月21日(水)