きもの

第5回 結城紬

すっかり春めいてきたこの頃。今年はサクラも早そうだという話を聞きました。そういえば、去年は満開のサクラの頃に大雪が降ったのを思い出します。滅多に見られない美しい風景に心を奪われて、窓の外を飽きずに眺めていました。東京で雪が降るのは春が近づいてからが多いので、今年もそんな景色が見られるかもしれません。
さて、きものは大きく分けて硬いきもの(織り/紬)と柔らかいきもの(染め)の2つがあります。今回は紬の中で最も古い絹織物という結城紬を取り上げます。

■ 第5回 結城紬 ■

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日本三大紬といえば、「結城紬」、「大島紬」、3番目は諸説あって「牛首紬」、「塩沢紬」、「上田紬」などが挙げられます。中でもきもの好きの憧れの1つが結城紬。茨城県結城市で織られる結城紬の歴史は古く、奈良時代にまで遡ります。当時、常陸国の特産物として朝廷に上納された布(あしぎぬ)は紬の原型とされ、奈良・正倉院に保管されています。室町時代になると結城家から幕府・関東官領へも献上されたことから「結城紬」と名を変えました。以後長年にわたり成長してきた結城紬は、昭和31年に国の「重要無形文化財」に、昭和52年には「伝統的工芸品」に指定されています。


結城紬の魅力は真綿紬の風合い

結城は繭から手紡ぎした撚りのかからない無撚糸で織られます。重要無形文化財の指定要件はこれに加え、絣模様をつける場合は手くびりによること、地機(いざり機)という最も原始的な織機で織ること、とされています。糸をくくって絣模様を作る「絣くくり」は、最も単純とされる80亀甲(反物の幅に80個の亀甲模様が入る)で160ヶ所、最高の細かさである200亀甲では約400ヶ所にもなります。1反にかかる絣くくりは数ヶ月にも上る場合もあり、手が変わるとくくる強さが変わるため、最初から最後まで1人の職人さんが行います。結城に行くと機屋さんを見学することができますが、奥順という有名な機屋さんで今はもう作ることができないという店の宝を見せてもらったことがあります。それは細かい亀甲が並んだ美しい反物でした。


■ きもの1枚に帯3本

結城紬は柔らかくて軽いといわれますが、新しいものは印象ほど柔らかくはないのです。というのも、3代にわたって洗い張りを繰り返して、水をくぐるほどに着心地が良くなっていくので、昔は「下ろし立ては女中さんに着せろ」といわれたほど。その感覚はちょっとジーンズに似ていますね。

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上の画像は無地の結城紬です。ひと足早くサクラの帯を合わせてみました。きものが面白いのは、季節をそのまま表現できるところ。自分がサクラに同化したかのように、帯揚げにも薄いピンクをあしらい、帯締めも緑からピンクの暈しを合わせます。こんな風に、季節そのままの格好をするのは洋服ではあまりしないこと。きものならではの楽しみです。日本文化は季節感を大切にするので、きものにもそういう感覚が反映されるのです。サクラの柄は散るまでの数週間使うことができますが、きもの通の人の中には、節分、桃の節句、七夕といった、年中行事のたった1日だけのための帯や帯留めを用意する人もいます。そういう贅沢も、きものの楽しさのひとつといえます。

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同じきものに南風原の花織の帯を合わせてみました。きもの1枚に帯3本といわれるように、帯を変えるとまた違う雰囲気になります。春はもうすぐそこ。みなさんもきものでお出かけしてみてはいかがですか。(文/レディ東京編集者 中島有里子)

《 今月のワンポイント:長襦袢 》

kimono05_d.jpgきものの下に着る長襦袢は密かなお洒落です。関東では友禅などの華やかなきものより無地やシックな色合いが好まれますが、その分長襦袢で遊びます。袖口や袂からこぼれる色や柄に着る人のセンスを感じてハッとすることがあります。ちなみに、襦袢はポルトガル語のジバン(袖の広い上着)が語源とのこと。16世紀頃南蛮人によってもたらされたそうです。意外ですね。そういえば祖母は「長ジバン」と言っていましたが、それが正しい発音だったということですね。
 

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更新日:2021年3月3日(水)