きもの

第11回 ルールより体感で着る

■ 第11回 ルールより体感で着る ■

1枚のきものを春から秋まで

きものには季節のルールがあって、6月・9月は裏のない単(ひとえ)、7月・8月は薄物、それ以外は袷(あわせ)と決まっています。でも温暖化で気温の高い季節が多くなり、そのルール自体が体感と合わなくなってきているし、季節によって何枚も必要となると、せっかく興味が湧いてもはじめの一歩を踏み出せなくなります。もちろんお茶の世界ではそういうわけにはいきませんが、洋服でカジュアルとフォーマルがあるのと同様に、きものもラフに着られるものがあった方がいいですね。洋服でいうところのデニムや、プチプラの感覚できものを着ることができたら、きもの人口がもっと増える気がします。

先日、ある着付け講師の女性に目から鱗が落ちるようなお話を聞きました。その方は、浴衣としても着られる1枚の単を、中に着るものを変えることで4月から10月終わりまで着回すことを提唱しているのです。つまり春には袷の、夏には麻の長襦袢を着て暑さ寒さを調節し、真夏には同じきものを浴衣として楽しむ。そして秋になったらまた袷の長襦袢を着る、という方法で晩秋まで同じきものを楽しもうというのです。それ、いいなぁと思います。そのくらいラフなら、きものを楽しむ人が増えるのではないでしょうか。幅広い季節に着られるものを選ぶとしたら、お値段も洋服程度の木綿のきものがいいのかな、と思います。きもの初心者なら、チェックやモダンな花柄などが抵抗が無いかもしれません。最近はグレンチェックなどもあって、洋服感覚で選ぶことができます。

 

 「作家もの」のきもの

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kimono11_b2.jpg 伝統的な染織は日本全国にあって、長年培われた伝統のきものはそれぞれ魅力的です。それとは別に日本には数多くの染織作家がいて、個性あふれる作品を作っています。糸を草木で染め、その糸を織って反物を作る人、1枚のアートのような素晴らしい染めをする人、自分で型を掘って染める人など様々。そんな中に、重要無形文化財保持者(人間国宝)の志村ふくみさんの下で染織を学んだある作家さんがいます。志村さんは、草木染めの糸を使用した紬織の作品で知られ、素朴でありながら奥行きのある作品はきもの好きの憧れとなっています。紬が好きな私も志村さんのファンなのですが、人間国宝の作品となるととても手が出せません。でもその弟子の作家さんの作品は、同じテイストでありながら私でも買える値段。ある展示会でその作家さんのきものを見て、私は一目惚れしてしまったのです。それが写真のきものと帯です。縦縞のグレーは確か樫で染めたものだったと思います。そして、細く入った線の爽やかな水色は、臭木(くさぎ)の実で染めたもの。真っ赤な萼に囲まれた黒紫の実からは想像のできない色ですが、臭木は焙煎なしでこの水色に染まると聞いて感動しました。草木染めは自然を纏う感覚が素敵なのです。写真は春のコーディネートなので小物をピンクや若草色になっていますが、秋色の小物にすると雰囲気が変わります。

(文/レディ東京編集者 中島有里子)

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更新日:2021年9月1日(水)