寒い中にも春の兆しが感じられる季節になりました。不思議なもので、立春を過ぎると途端に空気が春めいてきます。近所を散歩すると、どこからともなく梅の香りがしてきます。よく見るとサクラの枝先には花芽がたくさん付いていて、少しずつ開花に向けて準備していることがわかります。待ち遠しい春はもうすぐそこまで来ているのですね。
さて、趣味的要素の強い紬。どんなに高価でもフォーマルな場には着ていけない、いわば贅沢な普段着。そこが通好みのするところもあります。そんな紬から、今回は春に着たい黄八丈と久米島紬を取り上げました。
■■ 第4回 本場黄八丈と久米島紬 ■■
■■ 本場黄八丈
黄八丈は、八丈島に伝わる草木染めの絹織物で、島に自生する植物の煮汁で黄色・樺色・黒の3色に染められた糸で織り上げます。黄色は八丈刈安(コブナ草)、樺色はマダミ(タブの木)、黒色は椎の木の樹皮と泥浸けで染められます。媒染は榊・椿の灰汁など、アルミナ焙煎によって鮮やかな発色と独特の光沢が生まれ、孫の代まで色褪せないといわれます。
江戸時代には年貢として幕府に納められていた黄八丈。江戸後期に「恋娘昔八丈」という人形浄瑠璃で黄八丈の衣装が採用され、後に歌舞伎でも上演されたことから爆発的な人気を誇ったといわれています。現在では経済産業省伝統的工芸品として、また東京都産業労働局東京の伝統工芸品として「本場黄八丈」が指定を受けています。 縞模様や格子柄の黄八丈は、気軽な街着というイメージ。きものに不慣れな人でも縞や格子なら抵抗がないかもしれませんね。画像は春を感じさせる若草色の帯揚げに、道明のグリーン系の爽やかな帯締めを合わせ、遊びでヴィンテージのセルロイドのブローチを帯留めに。こんな楽しいコーディネートでお出かけしたら、気持ちがぐっと上がりますね。
■■ 久米島紬
こちらは久米島絣です。久米島というと泥染めが有名で人気もありますが、黒地のきものはかなり個性的なのでこのくらいの色の方が着やすいかもしれません。ここでは琉球柄の帯を合わせて個性を強調しました。久米島紬は15世紀に中国から養蚕が伝わり、久米島を起点に沖縄本島、奄美大島を経て本土に伝えられたとされます。大島紬、久留米絣、結城紬などの日本の紬の発祥の地ともいわれます。蚕から取った真綿で紡いだ糸を原料に、天然の草木や泥染めによって染色し、高機で織っていきます。全ての工程を1人の織子が行うのが特徴。江戸時代には貢納布として米に変わって納められていたため、15歳から45歳までの島の女性は「布屋」と呼ばれる集落毎の工房で「御絵図(みえず)」という王府の絵師が描いたデザイン見本の通りに正確に織り上げることが求められました。現在、貴重な久米島紬は国の重要文化財に指定されています。
こちらは泥染めの久米島紬です。いわゆる琉球柄ではなく細かい織り模様が男性的なので、アフリカの木綿の絞りの帯と合わせて個性的な着こなしに。帯揚げはアフリカの大地の色、バッグも中央アフリカのクバ族の布で作ったもの。こんな遊びができるのは紬ならではの楽しさです。
きものや帯は、「たとう紙」に包んでしまいますが、紐を結んでしまうと中に何が入っているのかわからなくなりますね。そこでおすすめしたいのが、中に入っているきものや帯の写真をこのように貼っておくこと。これなら一目瞭然で中身がわかるので、きものを着る度に色々開けてみる必要がありません。ちょっとしたことですが、これだけでストレスなくきものを着ることができます。
更新日:2021年2月3日(水)