暑くも寒くもない、気持ちのいい季節になりました。街を歩くとあちらこちらで春の花々や若葉が目に入り、春のエネルギーを浴びて元気になる気がします。きものを着てお出かけするにも良い季節ですね。さて、外国人にも人気のきもの。一般には派手な色柄の方が外国人には好まれると思われていますが、フランス人の友人たちが「なんてシックなきものなんだ!」と褒めてくれたのは、どれも無地に近い落ち着いた色合いの紬でした。今月はそんなきものの1つ、大島紬を取り上げます。
■■ 第6回 大島紬 ■■
きものに詳しくない方でも「大島紬」の名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。日本三大紬の1つで、きものの女王ともいわれる大島紬。手で紡いだ絹糸を泥染めし、手織りした平織りの着物で、奄美群島の伝統工芸品。本場大島紬は、タテ・ヨコの絣をカスリ合わせて織り上げますが、独特の絣模様は繊細かつ鮮やかで、鉄分を多く含むため虫食いが起きにくいという特徴があります。
奄美大島では、古くから養蚕と織物が盛んに行われていました。天智天皇の頃にはテーチ木(車輪梅)染が始められたとされ、東大寺正倉院の宝物帳にも「南島から褐色紬が献上された」と記されています。大島紬が真綿からの手紡ぎ色から今のように光沢のあるしなやかな糸になったのは明治中期のこと。この頃にいざり機から高機に変わり生産性が向上、高級織物として広く知られるようになりました。
大島紬は鹿児島と奄美大島で織られていますが、泥染めに使う泥は奄美大島にしかありません。そのため泥染めにはすべて奄美大島の泥が使われます。その泥染めに欠かせないのが車輪梅。車輪梅のことを沖縄地方の方言でテーチ木、またはティカチといいます。独特の深い黒は、このテーチ木で何十回も染めた後に泥染めすることで生まれるのです。
泥染めに欠かせないテーチ木(車輪梅)
大島紬ができるまでには30〜40の工程があります。その1つひとつを見るだけでも大変な作業だということが伝わって来ます。絣を作る柄締めのための糸は、12〜16本の糸がまとめて糊付けします。細かく切ったテーチ木は何時間も煮出し、図案に基づいて糸がくくられます。どの工程を見ても、それはもう考えただけで手のかかる作業で、このすべての工程が人の手で行われていることを思うと、大島紬の社会的地位の高さにも納得してしまいます。
図案通りに糸くくりをして染めます
大島紬の美しさは、細かな点と点を合わせて作る絣の美しさです。島の自然の動植物や道具、風土に根ざした伝統的な文様など様々。値段はピンキリですが、目が飛び出るほど高級なものであってもフォーマルな場所には来て行けないのが紬の運命。もっとも、最近では披露宴など格式の高い場以外のパーティーには着て行ってもよいという人も多くなりました。きものの格式をあまり厳格に守ろうとすると、敷居が高くなり着る人が余計に減ってしまいます。きもの文化を守るためにも、明らかに場違いなものは別として、あまり厳格にしない方がいいという気がします。とはいえ、紬は柄ゆきが普段着っぽいものが多いですね。パーティーにふさわしいかどうかは柄にもよるのです。
(文/レディ東京編集者 中島有里子)
きものの足元といえば草履。草履にはフォーマルとカジュアルがあり、見た目がまったく違います。正式な場所の草履は裂地かエナメルで色は金・銀・白。かかとの高さは5〜6センチで、高ければ高いほどフォーマルだといわれています。
一方、紬や小紋、綿や麻のきものに合わせるのはカジュアルな草履。こちらは素材も様々で、雨に強いウレタン素材・畳表やパナマの台にお洒落な柄の鼻緒で遊びの要素がいっぱいです。
意外と目立つ足元。ステキな草履で足取り軽く歩きたいですね。
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更新日:2021年4月7日(水)