■■ 第12回 いつもと違う自分を楽しむ ■■
■■きものは非日常のエッセンス
慌ただしい日常を送る私たちの暮らしには、動きやすく合理的な洋服があれば事足りるかもしれません。でも、ちょっと気分を変えたいとき、ゆったりと流れる時間軸で過ごしたいとき、いつもと違う自分を演出したいときに、きものを着ることができると簡単にその世界に行けるように思います。
洋服のセンスが抜群のある友人、「きものは非日常のエッセンス」と言って、ライブやピアノのレッスンにきものを着て出かけます。きものはいつもの生活に「非日常」を運んでくれるのです。ある種の変身願望を満たしてくれるし、美しい日本の文化を身に纏っているという満足感も与えてくれます。何より、きものを着ていると特別扱いしてもらえるのが嬉しいところ。レストランでいい席に案内されたり、お店で特別なサービスを受けたりすることがあります。きもの姿の人はレストランにとっても嬉しいお客様なのです。
■■ 白無垢のロシア人
非日常といえば、もう随分前のことになりますが、知人のロシア人の結婚式に呼ばれたことがあります。親日家の新郎はニューヨークを拠点に事業を展開する実業家で、モルジブやパリ、モスクワにも住まいがあって、日本では麻布十番の高層マンションに部屋を持ち、数ヶ月に1度日本に来ては1ヶ月ほど滞在していました。私が新婦と知り合った時、ふたりは婚約中だったのですが、ある時結婚式の招待状が届いて驚きました。挙式の場所が愛宕神社だったのです。
ロシア人カップルが日本の神社で結婚式を挙げるというだけでも驚きでしたが、行ってみてまたビックリ。新郎新婦を含め、招待されて来日したロシア人の多くが和服姿だったのです。それほど広くない愛宕神社の境内が、きものを着たロシア人で埋まるという不思議な光景。でも、パリコレのモデルだった新婦は、白無垢が驚くほど似合っていたし、黒紋付の新郎とのツーショットはゴージャスで素敵でした。リッチな外国人が憧れる結婚式が日本の伝統美だというのを知って、なんとも嬉しく誇らしい気持ちになりました。
披露宴は日本式。赤い打ち掛けにお色直しした新婦を迎え、新郎新婦が高砂に座ります。樽酒を割って升で乾杯の後、新郎の挨拶で始まり、途中に友人たちのスピーチ。お食事はフレンチでしたが、途中新婦はウェディングドレスに着替え、キャンドルサービスの後にウェディングケーキ入刀。そして最後は両親に花束贈呈。こういう日本式の披露宴をやりたかったのだそうです。面白いですね。
私ももちろんきもので出席しました。薄いグレーの紋付の鮫小紋に、黒字に大振りの花模様の唐織の帯を締め、白の縮緬の帯揚げに紅白の水引の帯締。外国人のパーティーなので派手めに。きものは上から下までオールシルクです。フォーマルな席では、ドレスに引けを取らないきものが安心です。ザ・ペニンシュラで4時間続いた披露宴の後は、最上階のバー貸し切りのアフターパーティー。素晴らしく豪勢な結婚式でした。
(文/レディ東京編集者 中島有里子)
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更新日:2021年10月6日(水)