【 第6回 】旅から学んだこと、そして未来へ
♦︎旅は女性を美しくする
欧米には「レディーファースト」の文化があります。「日本にいるとなかなか自分が女性であることを意識するチャンスはありませんが、欧米を旅し、男性たちが女性を弱きものとして、女性を女性として大切に扱ってくれます。男性にドアを開けてもらい、椅子を引いてもらい、時には手を差し伸べてもらって大切にされると、女性もそれなりのふるまいをし、女に磨きがかかり、きれいになるものです」と兼高さんは著書の中で書いています。ジェンダーレスの時代ではありますが、「自分が女性である」ことは事実。「自分が何歳かである」ことも事実。その曲げられない事実を磨くのに旅はいい機会だといいます。
旅の良さは日常から離れることです。仕事から完全に離れて心を休めるには3日くらいの休みではダメで、やはり3週間くらいの長期休暇が必要です。海外のようにバカンスの習慣がない日本では、現役世代が実現するにはなかなか難しいかもしれませんが、リタイアしたらゆったりとした旅がしたいものですね。
兼高さんは船旅の良さについても著書の中で語っています。日本ではドレスアップする機会もなかなかありませんが、クルーズ船の旅ではドレスコードのあるディナーも企画されています。「イブニングドレスでも身にまとえば心身ともに引き締まり、人に見られることで輝きも増す」というわけです。クルーズ船では乗客を楽しませるためのさまざまなイベントが用意されているので、本を読む時間もないほど大忙しだそうです。カップルや親子の旅はもちろん、ひとり旅でも楽しめそうですね。普段と違う場所に身を置き、普段とは違う人と触れ合い、普段とは違うことをするというのが旅の醍醐味。その環境が女性を美しくするのです。
♦︎日本は地球上で数少ない恵まれた国
海外に出た人の多くが、自分がいかに日本を知らないかを思い知らされたといいます。兼高さんもアメリカ留学中にそれを痛感し、「母国の日本を知らずして、グローバルな視点で世界を語れない」という思いを強くします。それで、日本に帰ってきてからは京都に通い、桂離宮や修学院離宮などの伝統的建造物を巡り、歴史や文化について本を読みました。それが後に「世界の旅」で外国の人々と交流する上で大いに役立ちました。
「世界の旅」が終わった後、兼高さんは日本を旅するようになりました。年間で100日ほど旅をしていたそうです。世界中を飛び回り、美しいものをたくさん見てきた彼女が、「日本は地球上で数少ない恵まれた国」、本当に美しい、というのです。「北から南までバラエティーに富んでいて、海あり、山あり、谷あり、川あり。水がきれいで木も豊富で。四季があり、季節ごとに風景の趣も変わります」。海外にも心を奪われるような美しい風景やダイナミックな自然がたくさんありますが、恵まれた日本の自然の美しさを私たちはもっと認識して大切にしていくべきだと兼高さんは書いています。
♦︎「世界の旅」と結婚した兼高さんは
「一般財団法人 兼高かおる基金」という子どもを残した
兼高さんは生涯独身でした。1年の半分を海外で過ごし、日本に戻ってもフィルムの編集や原稿書き、次の取材の準備などに追われる暮らしでは、恋愛をする時間などないのではと思いきや、お付き合いした人はいたそうです。ちょっと嬉しい気がしますね。でも、付き合っていて「いい人だな」と思っても、必ずというくらい別れざるを得ないような事情が出てくる。その後には、それに代わるような仕事が舞い込んできたそうで、つくづく結婚しない運命だったのだ、と思ったとか。なんといっても彼女を夢中にさせたのは「世界の旅」だったのです。「仕事と結婚する」という表現がありますが、彼女はまさに「世界の旅」と結婚したのでした。
2014年、兼高さんは、医療従事者や医者になる夢を持つ学生に奨学金を給付することを目的に、「一般財団法人 兼高かおる基金」を設立しました。背景には、かつて彼女自身が「人の命を救う医者になりたい」という夢を持ち、旅行ジャーナリストとしての道を歩んだ後もなお、「1人でも多くの医者や看護師が育つ社会を創りたい」と切望していた経緯があります。財団設立は兼高さんの人生の集大成であり、彼女が生み出した「我が子」だったともいえるのではないでしょうか。
兼高さんは、2019年1月5日、90歳でこの世から去りました。「世界の旅」の映像約1000本、世界中の生活雑貨や民芸品などの収蔵品、膨大な紙資料や写真、スライドなどが遺品として残されたため、財団として兼高かおるコレクションを後世に伝えることを使命とし、それらの広報・維持・管理活動を通して社会貢献することを定款に加えました。
地球を180周し、150カ国に及ぶ国々を訪ね、31年間にわたって世界の面白さを日本に伝え続け、誰も真似のできないような偉業を成し遂げたスーパーレディは、最後に素晴らしい社会貢献を形にして、人生という長い旅を終えたのです。
(おわり)
「一般財団法人 兼高かおる基金」では、兼高さんの遺志を受け継ぎ活動を続けています。レディ東京は、同財団の活動に賛同し協力しています。
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更新日:2024年9月4日(水)