きもの

第20回 コンサバなきもの、モードなきもの


■ 第20回 コンサバなきもの、モードなきもの ■


きもの雑誌に出ているきものは「コンサバ系」

私が普段よく着るきものは、有名産地の紬や作家ものの紬がほとんどです。洋服で言えばコンサバ系です。きものを着始めた頃は、雑誌で紹介されているきもの好きの女優さんの姿を「ステキだなぁ」と思って見ていたので、自然とそういうきものを選んでいたのです。東京人なので色も柄も抑えたシックなものがしっくり来るし、どちらかというと無地に近い感覚のきものを帯周りで遊ぶ、という感じでした。それでも十分に楽しいのです。帯の色や柄、帯締めの色で季節を表し、帯留めや帯飾りでアクセントをつけて、1つのきものを幾通りにもコーディネートするのは、きものの大きな楽しみです。

ところが、最近アンティーク着物に触れる機会が増えて、きもののルールなど全然関係なく着られるアンティーク着物に面白さを覚えてしまいました。アンティークきものは帯周りだけでなく全身で遊ぶ感覚が楽しい。渋い雰囲気のものしか選べなかった私の固定観念を、アンティークは見事に壊してくれました。

アンティークきものは「モード系」


 先日、アンティークきもののコレクターの方にたくさんのきものや帯を見せていただく機会がありました。「アンティークきもの」というのは、明治・大正・昭和のきものです。好きなものを羽織ってみていいというので、いくつか着させていただいたのですが、どれもこれも色や意匠が大胆で斬新。テンションが上がります。昔の人はお洒落だったなぁと感心しますが、きものが日常着だった時代ですから作り手も気合が入っていたのでしょう。糸が今のものより細いので、美しいだけでなく柔らかくて軽いのも特徴です。洋服では柄×柄の組み合わせを敬遠してしまうのに、きものなら平気でできるのが不思議です。

この時代のきものは「モード」なんですね。洋服もコンサバ系よりモード系が好きな私にとって、モード系のきものに惹かれるのは自然の成り行きかもしれません。着て行く場所は選びますが、遊び着としてならどこへでも大丈夫だし、パーティーの席ならどんな洋服より華やかになります。その場にいたほかの女性たちも、色々羽織ってみては大興奮でした。美しい布を纏うと女性の心は自然と高揚して、アドレナリンが全開になるんですね。

上から下まで1万円で揃うことも

コレクターの方に聞いたところによると、これらのきものはどれも骨董市や古着屋さんなどで1〜2万円で買ったものだそうです。確かに、私のお気に入りのアンティークも6500円で買ったものでした。最近買った羽織も同じくらい。これなら洋服より安いですよね。「どうやって探すのですか」とよく聞かれますが、最初は詳しい人に教えてもらうのが1番です。やがて自分の「好きなもの」が決まってくると、きものの方から手招きされるようになって、探すのが上手になります。

きもの人口が少ない今、伝統文化を守るためには日本全国の職人さんを応援したい気持ちがあります。でもそれと同時に、既にこの世にあり誰にも着られずに出番を待っている「べっぴんさん」たちに、もう一度光を当てることも同じくらい大切で、それこそがSDGsだと思うのです。
(文/レディ東京編集者 中島有里子)


更新日:2022年6月1日(水)