■■ 第42回 こぎん刺し ■■
青森県津軽地方に伝わる「こぎん刺し」は刺し子の技法の一つです。この地域では野良着のことを「こぎん」と呼び、この名前がついたと言われています。庶民の生活の知恵から生まれた「こぎん刺し」は温かみのある趣から今、新たに注目が集まっています。
■■保温と補強、生活の知恵から生まれた「こぎん刺し」
津軽地方の冬は寒さが厳しく、綿の栽培をすることができなかったうえ、綿製品はとても高価で農民が普段着として使用することは禁止されていました。そのため、農民たちは麻の衣服を着ていたのですが、麻は目が粗く通気性がよいため、津軽の冬には不向きで、傷つきやすいという欠点がありました。そこで農民達が「少しでも温かく、少しでも強く」と麻織物の弱点を補うために生まれたのが、麻糸や木綿糸で刺し子を施した「こぎん刺し」です。江戸時代には盛んでしたが、明治維新以降は東北地方にも綿が流通するようになり、やがては途絶えてしまいます。しかし、民藝運動、重要有形民俗文化財の認定を機に伝統工芸品として注目を集めるようになりました。
刺し子は日本各地で見られますが、特に東北地方で盛んで青森県の南部地方の「菱刺し」、山形県庄内地方の「庄内刺し子」、津軽地方の「こぎん刺し」の3つを合わせて三大刺し子と呼んでいます。
■■一針一針、丁寧に生み出される芸術的な幾何学模様
「こぎん刺し」は横方向に奇数の目に針を刺し、模様を作っていきます。模様の元となるのがモドコと呼ばれる縦長の菱形で現在約40種ほどあります。その模様には豆や蝶、猫の目などのモチーフがあり、このモドコを組み合わせてできる模様は200以上とも言われ、さまざまな幾何学模様が生み出されます。
また、「こぎん刺し」は冬が長い津軽地方の女性達にとって大切な仕事で、麻を織り、刺し子を施し家族の衣服を作っていました。その作業は女性達にとって楽しいことであり、ものづくりの喜びを味わっていたようです。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧諸国も刺繍が有名ですが、冬が長い東北地方でもこのように刺し子が盛んだったのは興味深いところです。現在はカバンやボタン、コースターなどの小物類などもたくさん作られているので、一度手にとってみてはいかがでしょうか。
(レディ東京ライター/近藤洋子)
更新日:2024年6月5日(水)