きもの

第18回 アンティークきものの魅力

■ 第18回 アンティークきものの魅力 ■

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銘仙の面白さ
"アンティークきもの"の代表といえば、大正ロマンのイメージと重なる銘仙ではないでしょうか。明治になって身分制度が改まり、それまでは庶民が着ることのできなかった絹のきものが庶民の日常着になると、洋服感覚を取り入れた銘仙が広く受け入れられるようになりました。色鮮やかで多彩な柄の"模様銘仙"は、まず女学生の間で大流行となり、それが幅広い年齢層にも広がって、大正末期には和服で歩いている人の約半数が銘仙を着るほどの人気となったそうです。当時、"洋服感覚"として流行った銘仙が、今では最もきものらしいきものに見えるから不思議です。1950年代に最盛期を迎えた銘仙は、その後登場したウール着物にとって替わられ、色柄も古典的なものに戻っていきました。

関東では一般に抑え気味のシックな色柄が好まれますが、そんな中で華やかなアンティークの銘仙には特別な存在感があります。アールデコやキュービズムの影響を受けたポップでモダンな色使いは斬新で魅力的。昨今のアンティークきものブームで息を吹き返した銘仙は、当時女学生の間で流行ったように、今も若い女性に人気があり、足元をブーツにするなど、自由に楽しく着こなしています。私が先日手に入れた銘仙の羽織は、しつけが付いたままのきれいな状態でした。少し前なら派手に感じたかもしれませんが、今だからこそこんな大胆な色柄が新鮮に映ります。私は上から下までアンティークを着るより、紬の上に銘仙の羽織をサラッと羽織る方が大人のお洒落という感じでいいなぁと思いますが、友人のお祝いのパーティーだったこの日はきものもアンティーク。たまにはこんな装いも楽しいですね。

時代の色、時代の柄

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 「きものには流行はないから親から子へ受け継ぐことができる」といわれますが、実際にははっきりとした流行があって親のきものはやはり古臭かったりします。きものそのものの色柄もあるのですが、それ以上に気になるのが八掛。袖の振りや裾からチラッと見える裏の色です。昔のものは赤が多いんですね。大島の裏地など赤が多く、それが古臭さを感じさせます。また、大抵は親世代の方が身長が低いので、寸法が合わないこともあります。かといって仕立て直すとなるとそれなりにお金がかかるので、ついつい箪笥の肥やしにしてしまいます。

着物に限らず時代の色・柄というものがあって、例えば器に使われる藍の色にも、江戸時代の色、明治の色、大正の色あり、それらはひと目でわかるものです。中でも面白いのは大正時代。たった15年しかないのに国内外が激動の時代だったためか、その時代感にはハッキリとした特徴があります。アール・ヌーボーやアール・デコ、大正ロマンと呼ばれる時代感ですね。耽美主義やダダイスム、デカダンスに影響を受けた退廃的な気分を伴った大正ロマンは、なんとも魅力的で人々を惹きつけました。画家でいえば竹久夢二。その時代のきものにもそういう匂いがあって、素直なきものしかない今の時代の私たちの心をわしづかみにするのです。
(文/レディ東京編集者 中島有里子)


更新日:2022年4月6日(水)