【 第3回 】ケネディ大統領、チャールズ皇太子、ダリなど世界のVIPとの面会
兼高かおるは、旅先で出会った土地の人々からヨーロッパの貴族までさまざまな人物を取材しましたが、とりわけ目をひくのは世界の要人たちとの面会でしょう。歴史上最も印象に残るアメリカ大統領ともいえる第35代大統領ジョン・F・ケネディやシュールレアリズムの巨匠、スペインの画家サルバトール・ダリ、皇太子時代のチャールズ英国王やその父フィリップ殿下の伯父であるマウントバッテン卿、韓国の朴 正煕大統領など、多くのVIPと面会しました。
♦︎実はキューバ危機の最中だった、ケネディ大統領との面会
ジョン・F・ケネディ大統領に会うためにホワイトハウスを訪ねたのは、大統領就任2年後の1962年のこと。はじめに会うはずだった日は大統領が風邪をひいたため会えず、兼高さんの一行はホワイトハウス内をぶらぶら見学して歩いたのだそうです。今ならセキュリティが厳しくてとてもそんなことはできないでしょうが、大統領の部屋の近くまで入れたといいますから、当時は随分呑気だったのですね。ここでは司法長官だったロバート・ケネディや大統領新聞秘書官だったサリンジャー氏などが大統領とともにエネルギッシュに仕事をしている場面も目にしたそうです。後で知ったことですが、実はこの時はキューバ危機の真っ最中だったのです。そんな世界規模の危機の中にあっても、外国人である兼高さん一行にホワイトハウス内を自由に取材させるなんて、当時のアメリカは懐が深かったのですね。
ホワイトハウスでは、ケネディ兄弟やサリンジャー氏がお互いを愛称で呼び合い、周りのみんなが仲間の青年グループといった印象。世界を牛耳るアメリカの頭脳の集まりに、兼高さんは明治維新を思い出したそうです。ケネディ大統領もサリンジャー氏も当時は40代半ば、ロバート氏は37歳。世界のリーダーにふさわしい青年たちが生き生きと活躍していた時代は、今の世界情勢から見るとなんだか羨ましい気がしますね。因みに、ケネディ大統領との面会は当時の日本の首相より早かったそうです。
♦︎気さくなチャールズ皇太子
兼高さんが当時のチャールズ皇太子に会ったのは1985年のこと。まだダイアナ元妃と出会う前の独身時代で、場所はイギリス西部の半島ウェールズでした。皇太子は当時ユナイテッド・ワールド・カレッジ(世界各国から高校生を選抜して奨学金で教育する学校)の総裁を務めていて、兼高さんはその様子を取材しました。みぞれの降る中、皇太子が素足で荒海に出て溺れた人をボートで助ける訓練をする。そのことを側近が止めたりしない自由さに驚き、皇太子が誰に対しても丁寧に対応する姿に感銘を受けます。また校長が病気で入院すると学校に着くや否や、ドアを開ける人も待たずに車から降りてきて「校長先生はどうですか」と尋ねる人間味あふれる姿に感動します。お城の大きな部屋で兼高さんと話している時も、小さな電気ヒーターが1つしかないのを「寒いでしょう」といいながら彼女の方へ足でキュッキュッと引き寄せてくれるような気取りのなさ。相手が緊張しないようにユーモアを交えて語りかけてくれるサービス精神もチャールズ皇太子の魅力だったようです。
♦︎シュールレアリズムの巨匠ダリとの遭遇
ダリのスペインの自宅を訪ねたのは1959年9月。途中の取材に時間を取られすぎて4、5時間遅れてしまったそうです。ダリは家の前の浜辺に布の靴を履いて立っていました。質素な服装で髪に花を挿し、風に吹かれて呆然としたように立ち尽くす姿は、その辺りの農夫のようでしたが、ピンと跳ね上げた髭といい、その存在感は大変なものだったそうです。「お髭はどうやって固めるのですか」という質問に「これは砂糖で固めるのである」と答えて、「この髭の先からインスピレーションが、頭のほうへ通ってくるのですぞ」と、どこまでが本当かわからないことを言います。英語で会話しているのに、その中にスペイン語やフランス語、ロシア語が入ってくる。それを「すべて混ざっているのがいいんだ」とダリ。兼高さんのワイングラスに指を入れて舐めては「これが自分のワインの飲み方だ」と言ったり、彼女のために絵を描くと言ってエビをインクにつけ、紙にインクが飛び散ったものにサインをしたり、さらにそれを丸めて捨ててしまったり。天才のすることは不可解ですが、何が言いたかったのか考えるのが一生楽しいような、まさにシュールな人物だったそうです。
ほかにも、世界的なテニスプレーヤー、ビヨン・ボルグ氏とストックホルムでテニスをしたり、アラブのスルタンから石油の発掘権を贈られたり、マーシャル諸島では島をプレゼントされるなど、兼高さんの冒険の先では信じられないような出来事がたくさんありました。「物事はやろうと思えばなんでもできる」という兼高さんの冒険はまだまだ続きます。
(つづく)
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更新日:2024年6月5日(水)